さぶ
さぶ
山本周五郎 氏著 新潮文庫
最初は一体どんな話なのか
予想もつきませんでしたが、
読み進めていくうちに、
すっかり物語に引き込まれて
しまいました(笑)
とても読み応えのある長編で、
山本周五郎さんの他の作品
も読んでみたくなりました。
心に残った文を残しておきます。
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「にんげん生きているうちは、
知らねえまに世間へ借りや
貸しのできるもんだ。
おめえもいま世間に貸しを
一つ作ったというつもりで、
ここはなんにも云わず、
暫くうちの仕事を手伝って
いてくれ」(和助)
「にんげん誰しも考えるのは
自分が中心ですからね。
他人の痛みは3年でも辛抱
するが、自分の痛みは
がまんができないって、
よく云うでしょう。私も或る日
とうとう辛抱をきらしました」(与平)
「そうきめたものでもないさ」
と与平が話を引き出すように
云った、
「火傷をしたからって火を恐れても、
生きていくにはやっぱり火が
なくっちゃ済まないもんだよ」
「まあね、火にたとえればそう
だろうがね」とご一(ごいち)は
ゆっくり頷いた。
「どんなとんまな人間でも、
やがて火の使いようぐらいは
覚えるだろうが、世間のからくりや、
悪知恵のある人間にはかなわねえ、
牛か馬のようにこき使われて、
腰の骨のおっぴしょれるほど
働いたあげくが、家も田畑も
取られてしまうんだからな」
(与平、ご一)
「どんなに賢くってもにんげん
自分のせなかを見ることは
できないんだからね」(与平)
「俺は島へ送られて良かったと
思っている。寄場であしかけ三年、
俺はいろいろなことを教えられた。
普通の世間ではぶつかることの
ない人間どうしのつながりあいや、
気持ちのうらはらや、生きてゆく
ことの辛さや苦しさ、そうゆことを
現に、身にしみて教えられた、
読本でも話でもない、なま身の
この軀でじかにそういうことを
教えられたんだ。」(栄二)
「栄さんはきっと一流の職人になる
だろうし、そういう人柄だからね、
尤も、栄さんだけじゃあない、
世の中には生まれつき一流に
なるような能を備えた者がたく
さんいるよ、けれどもねえ、
そういう生まれつきの能を持って
いる人間でも、自分一人だけ
じゃあなんにもできやしない。
能のある一人の人間がその能
を生かすためには、能のない
幾十人という人間が、眼に見え
ない力をかしているんだよ、
ここを良く考えておくれ、栄さん」
(与平)
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無実の罪でつかまり、壮絶な数年間
を過ごす栄二の境遇を読むうちに、
自分の今の苦労なんて大したこと
ないと思えました(笑)
あと、
物語全体を通して、与平の言葉が
キーワードになってると思いました。
小説を読むと登場人物の気持ち
になって、その世界を疑似的に
体験できるのがいいですね。
最後に山本周五郎さんの言葉。
「人間の真価はなにを為した
かではなくて、なにを為そうと
したかだ。」(山本周五郎)
ありがとうございます!
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